
SYSTEM-LIGHT-CONTROL
 私は、もう、ずっと夜を追いかけていた。
 世界から「白夜の魔王」により夜が奪われてから数百年、私は遂にその居城の眼前にいた。
 多くの犠牲があった。数多の出会いと、別れがあった。
 煌々と光る太陽のもと、長い長い旅があった。
 白夜の魔王の居城は、まるで壁のように長く、その果ては見えないほどに遠い。
 それに比べて、入り口は小さな扉だ。
 頭上に掲げられた古代文字と、扉の横にある四角い石板が、静かに存在を主張している。
 私は旅の途中で手に入れた小さな板を取り出し、四角い石板に差し込んだ。
 すると、扉がスライドして開き、同時に何かが転がり出てきた。
「ああああ! 光だ! 光! 見える! 光が!」
 その人間は、何かを喚き散らしながら走ってゆく。
 あれは、白夜の魔王に会いに行った者がなると言われている、光の病ではないだろうか。
 光を求め、闇を嫌い、瞼の裏すらも恐れ、目を光に焼かれ、やがて死に至る不治の病。
 彼の安寧を祈りつつ、私は扉の中を見る。
 闇だ。
 こちら側から差し込む光に照らされた内部は、そう広くはない部屋のように見える。
 ゆっくりと、部屋の中へ足を踏み入れる。
 扉が閉まる。光が消える。闇に染まる。
 何も、見えない。
 白夜の魔王の気配は、ない。
 一歩踏み出す。何もない。両手を広げる。何もない。どこかで何かが落ちる音がする。何も見えない。闇の中で身動きが取れない。何もない。何もない。何もできない。
 光の病とはこうして生まれるのだ。私は理解した。
 不意にどこからか甲高い音が聞こえ、その後人の声がした。
「光源管理システムへようこそ。ご用件をどうぞ」
「誰? 誰でもいい。助けてくれ、光、光を!」
「コマンド承認。光量を増加します。エラー、既に光量は最大です。光量を維持します」
 声はそう答えると、それきり沈黙した。
 光は、無い。
「頼む……頼む、光をくれ。私に、光を。もっと、もっと光を……」
「コマンド承認。光量を増加します。エラー、既に光量は最大です。光量を維持します」
「光をくれ、なあ、頼むよ、光を」
「コマンド承認。光量を増加します。エラー、既に光量は最大です。光量を維持します」
「何も見えないんだ」
「コマンド承認。光量を増加します。エラー、既に光量は最大です。光量を維持します」
「なあ、光を……」
「コマンド承認。光量を増加します。エラー、既に光量は最大です。光量を維持します」
 そうして、私は、光を奪われた。



